大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成10年(行ウ)34号 判決

原告

朴斗夏

被告

藤沢税務署長事務承継者 相模原税務署 岩田洋

右指定代理人

熊谷明彦

須藤哲右

長谷川良則

穂坂浩一

伊藤秀行

田尻昭広

佐藤宣弘

主文

一  本件訴えのうち、「原告の平成六年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る消費税について藤沢税務署長が平成七年一二月二六日付けでした無申告加算税賦課決定処分を取り消す。」との訴えを却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が平成六年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る消費税に関し平成八年三月一三日付けでした更正の請求について藤沢税務署長が同年六月二八日付けでした更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

二  原告の平成六年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間に係る消費税について藤沢税務署長が平成七年一二月二六日付けでした無申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

原告は、神奈川県高座郡寒川町において、パチンコ店の換金用の特殊景品交換業を営んでいた者であり、平成六年一月一日から同年一二月三一日までの間(以下「本件課税期間」という。)の売上げに係る消費税(以下「本件消費税」という。)について、藤沢税務署長に対し確定申告をした。これについて、藤沢税務署長は、期限後の申告であるとして無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。その後、原告は、右売上げは業務委託手数料であり、消費税法(平成六年法律第一〇九号による改正前のもの。以下「法」という。)九条により納税義務は免除されるとして、同税務署長に対し課税標準額及び納付すべき税額をいずれも零円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。これについて、同税務署長は、右請求は理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。また、本件賦課決定処分と併せて「本件各処分」という。)をした。そこで、原告は、これを不服として、本件各処分の取消しを求めた。以上が本件事案の概要である。

一  基礎となる事実(末尾に証拠等の記載がない事実は両当事者間に争いがない。記載があるものは主に当該証拠等により認定した事実である。)

1  原告の事業等

原告は、訴外山崎興業株式会社(以下「山崎興業」という。)が神奈川県高座郡寒川町宮山一三一で経営するパチンコ店ニュースター(以下「ニュースター」という。)の駐車場の一角に位置する小屋で、ニュースターの遊技客が持ち込むパチンコ店の換金用の特殊景品(以下「本件景品」という。なお、換金用でない景品も含めるときは、単に「景品」という。)を現金と交換することを業務(以下「本件景品交換業務」という。)としていた者である。(原告本人、甲一、乙三)

2  原告の確定申告

原告は、平成七年一二月一四日、本件課税期間の課税標準額を三七億三二三七万円、納付すべき税額を四八万七二〇〇円とする本件消費税の確定申告(期限後申告。以下「本件確定申告」という。)をした。(甲一、乙一、弁論の全趣旨)

3  無申告加算税の賦課決定処分

藤沢税務署長は、平成七年一二月二六日、原告に対し、本件消費税について無申告加算税の額を七万二〇〇〇円とする賦課決定処分(本件賦課決定処分)をした。

4  原告の更正の請求と本件通知処分

原告は、平成八年三月一三日、藤沢税務署長に対し、本件確定申告について、課税標準額及び納付すべき税額を各零円とする更正の請求(本件更正の請求)をしたが、藤沢税務署長は、同年六月二八日、原告に対し、更正すべき理由はない旨の通知処分(本件通知処分)をした。

5  不服申立て

原告は、平成八年八月一五日、本件通知処分を不服として藤沢税務署長に対し異議申立てをしたが、藤沢税務署長は、同年一一月二二日、これを棄却する旨の決定をした。

原告はさらに、平成八年一二月二四日、本件通知処分を不服として国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成一〇年七月七日、これを棄却する旨の裁決(甲一)をした。

6  原告の転居と事務の承継

原告は、平成九年二月一日に従前の住居である神奈川県高座郡寒川町岡田六二ベルテ寒川二〇一号から肩書住所地に転居したため、被告が原告に係る事務を藤沢税務署長から承継した。(甲一、弁論の全趣旨)

二  主な争点

1  本件賦課決定処分の取消しを求める訴えは、国税通則法一一五条一項の裁決前置主義に違反し、不適法か。

2  原告の本件景品交換業務からの売上げは、業務委託手数料であり、かつ、その本件課税期間に係る基準期間における額は三〇〇〇万円以下で、法九条の納税義務免除の規定に該当するか。また、原告の扱っていた本件景品は法六条一項に該当し、その売上げに消費税は課せられないか。

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件賦課決定取消しの訴えの適否)について

(一) 被告の主張

国税通則法一一五条一項は、「国税に関する法律に基づく処分…で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分…にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができない」と規定しているところ、本件賦課決定処分は同法七五条一項一号により異議申立ての対象となる処分であることが明らかである。しかしながら、原告が本件賦課決定処分について異議申立てあるいは審査請求をした事実はないから、本件賦課決定処分の取消しを求める訴えは不適法である。

(二) 原告の主張

争う。

2  争点2(一)(原告の事業及び売上げの内容)について

(一) 原告の主張

(1) 本件課税期間における原告の本件景品交換業務からの売上げは、いずれも業務委託手数料である。

(2) すなわち、原告は、訴外勝又重雄(以下「重雄」という。)又は重雄の息子訴外勝又勇夫を代表取締役とする株式会社マルカツ(パチンコ店の景品販売業者。以下「マルカツ」という。また、重雄と併せて「マルカツ等」という。)からニュースターの本件景品交換業務を委託され、すべてその指示どおりに本件景品を取り扱い、遊技客からこれを預かり、マルカツ等に納入し、その取扱高に応じて歩合の業務委託収入を得ていたに過ぎない。このことは、原告の一日の手数料が、上限を一律四万八〇〇〇円に制限されていたことからもいえることであり、また原告が平成八年一二月一〇日にマルカツ等より一方的に右業務の解約を申し渡されて失業に追い込まれたことも、原告の業態が委託業務であったことの何よりの証左である。

さらに、本件景品の表装には「(株)マルカツ」の刻印が押されており、原告はこれを預かっていたに過ぎないから、本件景品の性格は棚卸資産(販売資産)とは全く異なるのであって、その売上高は委託手数料の受取額である。

(二) 被告の主張

(1) 本件通知処分の取消訴訟においては、申告により確定した税額等を納税者に有利に変更しようとするのであるから、納税者が立証責任を負うべきである。そこで、被告は、以下において、必要な範囲で本件各処分の適法性を主張する。

(2) 原告は、ニュースターの遊技客が持ち込む本件景品を買い取り、これをマルカツ等に売り渡すのであり、これは、原告が自己の事業として行っているのであって、マルカツ等から委託されているものではない。原告が買い取った本件景品は原告の棚卸資産にほかならず、その売渡しの対価は、課税資産の譲渡等の対価である。その理由は、以下の事情から明らかである。すなわち、

〈1〉 原告は、本件景品交換業務の開業資金を当初重雄からの借入金により準備したものの、その後それを返済しているから、結局のところ自己資金で開業したと判断すべきである。

〈2〉 マルカツ等は、原告との契約を終了した平成八年一二月に原告がニュースターの遊技客から買い取って原告が所有していた本件景品をすべて現金で買い取った。

〈3〉 原告とマルカツ等との取引内容は、原告がニュースターの遊技客から本件景品を買い取り、これをマルカツ等に売却するものであり、このことは、原告がマルカツに対して提起した損害賠償請求の別訴(横浜地方裁判所平成九年(ワ)第五二七号事件)において、双方の争いのないところであった。

〈4〉 本件景品の価格は、マルカツ等からニュースターに交付されるものについてはマルカツ等とニュースター(ここでは、その経営主体の山崎興業の意味である。以下、便宜同様にいう。)とで、原告からマルカツ等に交付されるものについては原告とマルカツ等とで決定していた。

〈5〉 原告主張の「手数料」上限設定の経緯は次のとおりである。まず、マルカツ等は、ニュースターから、本件景品の両者間の売買価格を値下げするように要請されたため、一日の取扱高に上限を設け、それ以上の売却をしても利益が出ないように折り合いをつけ、原告の了解も得た。そのため、売上げが一定程度を越えると原告の利益は一日当たり四万八〇〇〇円の上限の制約を受けることとされたものである。

〈6〉 マルカツ等は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)に抵触することを避けるために、一旦原告が遊技客から買い取った本件景品を改めてマルカツ等が買い取る方法を採用したと思料される。

3  争点2(二)(売上金額と免除の有無)について

(一) 原告の主張

原告が本件景品交換業務から得る収入は委託手数料であり、その金額は、本件課税期間を含むいずれの年も三〇〇〇万円以下であるから、法九条に基づき、本件消費税は免除されるべきである。

(二) 被告の主張

法九条一項は、課税期間に係る基準期間における課税売上高が三〇〇〇万円以下である者は、課税期間中の課税資産の譲渡等についての納税義務を免除すると定めている。本件課税期間に対応する基準期間は平成四年であるところ、この年の原告の課税売上高は、2のとおりの仕組みにより本件景品の売却によりマルカツ等から受領した金額であり、原告計上の平成四年分の修正申告書に記載された収入金額一〇億八九一九万六二〇〇円から消費税相当額を控除した一〇億五七四七万二〇三八円である。したがって、本件消費税は、右免除の要件を満たさない。

4  争点2(三)(本件景品の非課税品目性の有無)について

(一) 原告の主張

本件景品は、具体的にはシャープペンシル及びコーヒー豆であるが、スーパーマーケットで販売されているような商品と異なって、単に「これを提示すれば〇〇円支払います」という請求権が化体したものとして流通しているに過ぎず、金銭債権の表彰又は支払指図書と全く同様の経済的存在である。

したがって、本件景品の譲渡は、法別表第一の二号に規定する「有価証券その他これに類するものとして政令で定めるもの」である同法施行令(以下「令」という。)九条一項四号の「売掛金その他の金銭債権」、同別表同号に規定する「支払手段」、同別表三号に規定する「利子を対価とする貸付金…その他これに類するものとして政令で定めるもの」である令一〇条三項八号の「金銭債権の譲受けその他の承継」、又は、同別表四号ハに規定する「物品切手その他これに類するものとして政令で定めるもの」である令一一条の「役務の提供又は物品の貸付けに係る請求権を表彰する証書」の譲渡に類するものとして、非課税とされるべきである。

(二) 被告の主張

本件景品はそもそも金銭債権や支払手段等ではなく、法別表第一が本件課税期間当時原告が取り扱っていた本件景品(シャープペンシルやコーヒー豆)の譲渡を掲げていないことが明らかである以上、本件景品の譲渡は消費税の課税対象となる。

消費税の課税・非課税は、課税の対象とされる資産の本来的な用途に供されることを目的とする譲渡であるか、本来的な用途以外の用途に供されることを目的とする譲渡であるかにより決せられるものではない。また、資産が特定の者の間を循環しているか否かも、消費税の非課税の判断の基準となるものではない。

5  本件各処分の適否

(一) 原告の主張

原告に本件消費税の納税義務があることを前提とした本件各処分は違法である。

(二) 被告の主張

原告は、本件景品交換業務により課税資産の譲渡をしたところ、右譲渡は、消費税の免除及び非課税品目の譲渡の規定に該当するものではない。したがって、原告は消費税の納付義務を負担する。そして、本件消費税の課税標準額等は、次のとおりである。

まず、原告が計上した売上金額三八億四四三四万一二〇〇円から、法二八条に基づき消費税相当額を控除するために、右売上金額に一〇三分の一〇〇を乗じる。この算出金額三七億三二三七万円が課税標準の額である。

次に、課税標準に対応する消費税額は、右課税標準に一〇〇分の三を乗じた一億一一九七万一一〇〇円である。

また、原告が課税仕入額として三八億二八六一万一八〇二円を計上しているから、法三〇条に基づき、これに一〇〇分の三を乗じた一億一一四八万三八三八円が控除対象仕入税額である。

そこで、納付すべき税額は、課税標準に対する消費税額から控除対象仕入税額を控除した四八万七二〇〇円となる。

確定申告の額は、右納付すべき額と同一であるから、本件各処分は適法である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件賦課決定処分取消しの訴えの適否)について

1  国税に関する処分についての不服申立て前置主義

国税通則法一一五条一項によれば、同法八〇条二項に規定する処分(酒税法第二章の規定による処分)を除き、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分(審査請求をすることもできるもの(異議申立てについての決定を経た後審査請求をすることができるものを含む。)を除く。)にあっては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起することができないとされている。

2  本件賦課決定処分についての審査請求前置主義

本件賦課決定処分は藤沢税務署長がしたものであるところ、国税通則法七五条一項一号及び三項によれば、税務署長がした処分について不服がある者は、その処分をした税務署長に対して異議申立てをすることができ、それについての決定を経た後の処分になお不服があるときは、その者は、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができるとされている。

したがって、本件賦課決定処分は、同法一一五条一項に定める「異議申立てについての決定を経た後審査請求をすることができる」処分にほかならず、審査請求についての国税不服審判所長の裁決を経た後でなければ、その取消しの訴えを提起することができないものといわなければならない。

3  本件賦課決定処分についての審査請求の不経由

しかしながら、原告が、本件賦課決定処分について、異議申立て及び審査請求を経た事実は認められない。

4  まとめ

したがって、本件賦課決定処分の取消しを求める訴えは、国税通則法一一五条一項の規定に反し不適法であるから、却下を免れない。

二  争点2(一)(原告の事業及び売上げの内容)について

1  原告の本件景品交換業務の実態

前記第二の一1の事実及び証拠(適宜末尾に略記する。)によれば、原告の本件景品交換業務の内容は、以下のとおりであったと認められる。

(一) 景品交換業務の基本的な仕組みと制度の背景

風営法二条一項七号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)を営む者は、その営業に関し、現金又は有価証券を賞品として提供すること及び客に提供した商品を買い取ることを禁止されている(風営法二三条一項)。したがって、パチンコ店で遊技をした客は、パチンコ店の遊技で勝利した場合においても、パチンコ店から賞品として現金を取得することはできず、また賞品として取得した物品(現金以外のもの)をパチンコ店において買い取ってもらう方法で現金化することもできない。

そこで、業界では、古くから、現金化を望む遊技客のために特殊の景品を決めておき、パチンコ店はそのような遊技客に賞品として特殊景品を交付し、遊技客はこれをパチンコ店の近くに設けられた景品交換業者(換金用の特殊景品のみを扱う者。以下、同様。)に持参して、一定の換算率でこれを現金化してもらい、景品交換業者は、この特殊景品を景品の販売業者に購入してもらい、販売業者はこれをパチンコ店に景品として卸売りをし、パチンコ店はこれを再び換金用の特殊景品として利用するという仕組みが設けられ、実行されている。

これにより、遊技で勝利した客で現金化を希望する者は現金を容易に素早く入手することができ、パチンコ店は風営法に直接違反することなく遊技客に換金のための簡易な手段を与えて遊技客を確保することができ、景品交換業者は遊技客からの特殊景品の買取価格と景品販売業者への譲渡価格の差益を収入とし、景品販売業者は景品交換業者からの買取価格とパチンコ店への譲渡価格の差益を収入とすることが可能となる。(乙三、原告本人)

(二) 原告の本件景品交換業務の開始及び事業資金

原告は、個人でパチンコ店の景品販売業をしていた重雄から、昭和四九年ころにパチンコ店の景品交換業務の仕事を紹介された。これは、寒川町にニュースターが新規開店する際に景品交換業者がいなかったためであった。原告は、ニュースターの店舗の家主がニュースターの駐車場内に建てた小屋を借りて、本件景品交換業務を開始した。

その業務内容は、原告がニュースターの遊技客から特殊景品を買い取り、これを重雄に買い取ってもらうというものであった。この業務を実施するには特殊景品の買取資金等が必要であるが、原告は、資金がなかったため、重雄からこれを借り受けた。利息は月四分であり、原告は、程なくこれを返済した。

重雄は、昭和五六年一月までは個人として景品販売業務を行い、原告からの特殊景品の買取りも行っていたが、同年二月には有限会社三恵物産を設立しその代表取締役となり、同社が重雄の景品販売業務を引き継いだ。さらに、平成四年一二月には重雄の長男の勝又勇夫を代表者とするマルカツが設立され、有限会社三恵物産の景品販売業務はマルカツに引き継がれた。なお、平成六年二月からは原告とマルカツとの間に重雄個人が介在することとなった。そのため、原告からの特殊景品の買取りも、重雄、有限会社三恵物産、マルカツ及び重雄が行うというように変わっていった。(乙三、原告本人)

(三) 各当事者の利益の内容と決定方法

原告のところに遊技客から持ち込まれるパチンコ店の特殊景品は、最近の約一〇年はシャープペンシル(原告は、本人尋問ではポールペンと供述するが、誤解と認める。)とコーヒー豆であり、その表装には「(株)マルカツ」と刻印がされていた。原告は、ニュースターの遊技客が持ち込むシャープペンシル一本を現金一〇〇〇円、コーヒー豆一包みを現金五〇〇円として交換に応じた(買い取った。)。原告が遊技客から買い取る一〇〇〇円という金額はマルカツ等とニュースターとで決定し、この金額の決定には原告は関与していなかった(乙四)。

次の段階の仕組みについては、シャープペンシル一本を例に採ると、原告はこれを一〇〇六円でマルカツ等に売却して六円の利益を得、マルカツ等はこれをニュースターに一〇一〇円で売却して四円の利益を得ることとしていた。マルカツ等が原告から購入する一〇〇六円という金額の決定はマルカツ等と原告との合意により行っていたが、マルカツ等がニュースターに売却する金額はマルカツ等とニュースターとで決定し、これについては、原告は関与しなかった。見方を変えると、ニュースターが購入する価額(一〇一〇円)と遊技客が換金する価額(一〇〇〇円)とはマルカツ等とニュースターとで決定し、その差額の一〇円の利益をマルカツ等と原告とで配分する割合については、マルカツ等と原告とで合意により決定することとされていた。この利益配分の割合は当初は半々であり、マルカツ等が原告から買い取る金額は一〇〇五円とされ、双方とも五円ずつを利益としていた。コーヒー豆についても同様であり、金額がそれぞれシャープペンシルの半額となるというものであった。そのころは、マルカツ等は、原告に代金を払って原告から特殊景品の交付を受け、これをニュースターに売却して交付し、ニュースターから代金を取得するという特殊景品の占有の移転を伴う方法によっていた。ところが、マルカツ等の営業の本拠が茅ヶ崎市にあり、ニュースターのある寒川市と距離があるために、マルカツ等にとっては、原告から特殊景品を回収してニュースターに届けるのが手間であった。そこで、マルカツ等は、平成元年ころ、原告にニュースターとの関係の業務を依頼し、原告がマルカツ等のためにマルカツ等に代わってニュースターに特殊景品を届けることにやり方が変更された。それに伴い、原告が、ニュースターに対する販売代金の総額を同店から回収し、一本当たりのマルカツ等の配分額だけをマルカツ等に交付するということとされ、その際、配分割合がそれまでの折半から原告六円、マルカツ等四円に変更された。(乙三、原告本人)

(四) 利益についての上限設定

平成四年ころから、ニュースターは、マルカツ等に対し、マルカツ等からの本件景品の購入価格の値下げを要望した。これは、ニュースターが薄利多売方式に営業方針を改めたため、買取対象の特殊景品が増加したことがその背景になった。そこで、マルカツ等は、ニュースターと交渉した結果、マルカツ等が売却する特殊景品がシャープペンシルに換算して一日八〇〇〇本を超えると、マルカツ等と原告との合計利益は八万円を限度とすることとし、ニュースターへの売却価格は一〇〇〇円に売却本数を乗じたものに八万円を加算した額とすることとなった(例えば、売却本数が九〇〇〇本なら、その売却価額は、右本数に一〇〇〇円を乗じた九〇〇万円に八万円を加算した九〇八万円となる。この点は、八〇〇〇本までの分は一本一〇一〇円で八〇八万円、八〇〇一本以上九〇〇〇本までの一〇〇〇本は一本一〇〇〇円で一〇〇万円とし、合計九〇八万円となると考えることもできる。)。この合意については、原告も説明されて了承した。これにより、原告の利益は、八万円の六〇パーセントの四万八〇〇〇円を上限とするものとなった。(原告本人、甲一・五、乙三、弁論の全趣旨)。

(五) 廃業時の精算

マルカツ等とニュースターとは平成八年一二月に景品販売取引を解消した。これは、ニュースターが景品を安く仕入れることのできる取引先を開拓し、マルカツ等に取引の解消を迫ったからであった。そこで、マルカツ等は、やむなく、これに応じざるを得なかった。その際に、原告のところに残った本件景品については、マルカツ等が買い取った。(乙五の一)

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

2  原告とマルカツ等との取引の性格

以上の事実によれば、ニュースターは、風営法二三条一項の規定があるので、パチンコ遊技で勝った遊技客に対して直接現金を交付することはできないし、遊技客に一旦交付した景品を買い取ることもできないので、右規定に反しないで、遊技客に現金を交付するようにするための工夫をしたのが、本件景品交換業務の仕組みであると認められる。そして、この仕組みについては、ニュースターからマルカツ等及びマルカツ等から原告に依頼され、それぞれが了承したものであり、内容的には、景品交換業者である原告が遊技客から特殊景品を買い取ることを必須の要素とするものであったといってよい。もちろん、その価格は原告抜きにニュースターとマルカツ等との間でシャープペンシル一本一〇〇〇円と定められたこと、原告がこれを転売する相手はマルカツ等に限定されること、その転売価額も一〇〇〇円と一〇一〇円との間で原告がマルカツ等と合意するという以外には決定方法がないといった点などは極めて特異な契約内容であるということができるが、前記1の事実及び右説示のとおりであるから、原告が遊技客から本件景品を買い取ること及びこれをマルカツ等に買い取ってもらうことは、共に売買であるというべきである。

なお、このような仕組みは、風営法二三条一項の規定の脱法ではないかとの疑問もないではないが、本件においては、それは論点ではないので、その点の判断はしないこととする。

3  原告の主張についての判断

(一) 原告に対する委託について

原告は、マルカツ等から業務を委託されたものであって資産を譲渡したものではなく、利益は、委託手数料であって本件景品売買による譲渡益ではない旨を主張し、その旨を供述する。

マルカツ等が原告に対し何らかの委託をしたといい得ることは前記の事実から認められるが、その場合における委託の内容というのは、原告が遊技客から本件景品を買い取って欲しいということであり、原告がマルカツ等の履行補助者として遊技客から本件景品を買い取って欲しいということではない。そして、原告は、これに応じて遊技客から本件景品の買取りをしたということである。しかも、そもそも、マルカツ等自体が遊技客から本件景品の買取りをすると、ニュースターの営業者が遊技客に提供した賞品をマルカツ等の景品販売業者の協力を受けて自ら買い取ることにもなり、風営法二三条一項二号に該当することになるとおそれたので、ニュースターのみならずマルカツ等としても、自己が買い取ることと変わらない内容で原告に買取りを委託することができなかった。マルカツ等及びニュースターのいずれにおいても、原告を関与させた目的は、まさに原告が遊技客から買い取った特殊景品をさらに買い取ることにより風営法違反を問われないようにすることにあったというべきであって、彼らが原告に対し、一日四万八〇〇〇円を限度とする前記金員をも支払っていた理由もそこにあるというべきである。経済的に見ると、原告の利益は原告にとってのいわば手数料収入といえなくもないが、それはあくまで比喩であり、売買という法形式にすることを原告を含む関係者が不可欠のこととして合意していた以上、原告の利益は売買による譲渡益と捉えるべきである。したがって、原告の右供述は前提において多大な疑問があるといわざるを得ない。

また、この点は、原告とマルカツ等との売買の在り方に制約があるとしても、原告が事業者としての独立性をなおも少なからず保持していることからも裏付けられる。すなわち、原告は、本件景品交換業務を開始するための資金を有していなかったから、マルカツ等から当初借り入れをおこしたが、原告がマルカツ等から借り入れることが本件景品交換業務を開始することの要件とされていたわけではないし、借り入れには金利の支払いが必要であった。しかも、原告が業務を行う景品交換所は、ニュースターの家主から原告において借りたものである。このように原告の計算と責任において本件景品交換業務が行われている面があり、マルカツ等が業務に必要なことの全部を用意して形式的な事実行為だけを原告にさせたというものではない。

(二) 原告の利益に上限が設けられたことについて

原告の受け取る利益を四万八〇〇〇円までとする上限が設けられた事実があったことは前記のとおりであるが、そのようにされた理由は、前記1(四)のとおりであり、取引量が多いときに利益を据え置きにするという特則であるから、必ずしも売買を否定することになるものではない。

4  まとめ

以上によれば、原告が本件景品交換業務により対価を得ていたのは本件景品の売却によってであり、本件消費税の課税の対象は本件景品の譲渡であったというべきである。

三  争点2(二)(売上金額と免除の成否)について

二4のとおり本件消費税の課税の対象は、本件景品の譲渡であって、原告の利益相当額の委託手数料ではない。そうすると、本件課税期間の基準期間における課税売上高は、原告が平成四年の修正申告で計上した一〇億八九一九万六二〇〇円(乙六)から消費税相当額を控除したものであり、三〇〇〇万円を大きく上回る。したがって、本件消費税について、法九条一項に定める納税義務の免除の適用はない。

四  争点2(三)(本件景品の非課税品目性の有無)について

原告は、本件景品は金銭債権を表彰するに過ぎない有価証券類似のものであって、法六条並びに別表第一の二号ないし四号により非課税とされるべきである旨を主張する。

しかし、法の別表第一の二号は「…有価証券その他これに類するものとして政令で定めるもの…の譲渡」のみを非課税としているに過ぎず、たとえ有価証券に類するものであっても、そのうち政令で定めるものの譲渡だけを非課税とする趣旨と解するべきである。同様のことは同別表三号及び四号ハについても当てはまる。

そして、右別表第一の二号ないし四号を受けた政令である令九条ないし一一条において、字義どおりの意味で本件景品がこれに該当すると定めた規定はない。また、課税の公平性の見地に照らし、その類推適用は許されないものというべきであるから、本件景品の譲渡が法六条一項の規定により非課税とされると解することは困難である。

五  本件通知処分の適否について

二から四に見たところによれば、本件景品の譲渡が課税資産の譲渡等に当たるとして計算された本件確定申告には誤りはなく、本件更正の請求は理由がないから、これと同旨の通知をした本件通知処分は適法であって、その取消しの請求は理由がない。

六  結論

以上によれば、原告の本件賦課決定処分の取消しの訴えは不適法であるからこれを却下し、本件通知処分取消しの請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 裁判官 平山馨)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例